倉庫業業態化へのターニングポイント

1964年東京オリンピックのハイライトのひとつ、男子マラソン。2017年10月6日、その歴史的な折り返し地点を目前に見る場所に、大型スポーツショップ「スーパースポーツゼビオ 調布東京スタジアム前店」がオープンした。仕掛けたのは、倉庫が抱える悩みに寄り添い、さまざまなソリューションを提供するイーソーコ総合研究所。倉庫の課題解決がなぜスポーツショップに、と思われるかもしれないが、実はこのスポーツショップ、建て替えによる倉庫活用の一環として、倉庫併設型店舗に生まれ変わったのである。

物件のオーナーは、同地を拠点に幅広い物流業務を展開する共進倉庫。地域に根付いた建材メーカーとして出発し、倉庫・物流業に転業した後も地域貢献を第一とした営業活動を行ってきた。

建て替えプロジェクトの発端は今から6年前。東日本大震災を受けて制定された東京都の耐震条例による倉庫の耐震化について、イーソーコ総合研究所・現社長の出村亜希子氏が共進倉庫の田澤正行社長から相談を受けたことにはじまる。共進倉庫の主な営業範囲である多摩地区では数年前より倉庫需要が拡大しており、これに対応できる倉庫の有効面積確保、および耐震化にともなう倉庫面積の拡張や機能の高度化が当初の目標で、そこに共進倉庫の社是でもある地域貢献を折り込むというのが目指すゴールだ。

そのために必要なものは何か。まずは現地に立つ2棟の倉庫の現状を把握するため、建物とそれに関連する事がらをひとつひとつ洗い出すという地味な作業がはじまる。そこで浮かび上がったのが、隣接地を購入して1棟を増築(あるいは建て替え)するという案。合わせてもう1棟の耐震診断、耐震設計を行い、それによって得られるメリットのシミュレーションを繰り返した。倉庫に寄り添い、建物が置かれた状況を判断し、最適な解決策を探る。そのさまは、患者を診断し症状に合わせた治療法を探る「ホームドクター」とも重なるものだった。

検討を続けるなかで進行していたもうひとつの案が、スーパースポーツゼビオの出店だ。倉庫を地域密着型の多機能大規模スポーツショップに建て替えるというプランで、収支や将来性はもちろん社会貢献等についても細かく分析した。結果、倉庫2棟のうち1棟は土地を拡大し店舗に建替え、もう1棟は倉庫を残して店舗の後方支援機能を持たせるという案が採用されたのである。

立地は京王電鉄「飛田給(とびたきゅう)」駅から徒歩5分。1964年東京オリンピック男子マラソンの折り返し点を挟んだ向かい側には「味の素スタジアム(東京スタジアム)」が控え、その隣接地には2020年東京オリンピック・パラリンピックの会場として使用される予定のスポーツ施設「武蔵野の森総合スポーツプラザ」が11月25日にオープンした。スポーツショップとしてはまたとない好適地といっていい。店舗は新築建物の3階、4階屋上を占め、フットサル兼テニスコートや子供も楽しめるキッズスポーツパーク、様々なプロテイン・サプリメントが試飲できるサプリメントバーなども設置。ゼビオでは「『体感できる』次世代総合スポーツショップ」と位置づける。

特徴的なのが、店舗としての構造だ。この建物、大規模な店舗でありながらバックヤードを持たず、在庫品などは全て隣接する倉庫に置かれている。現在ゼビオが使用しているのはそのうち150坪ほどだがいずれは1フロア全体(約350坪)にひろげ、ゼビオの関東地区におけるEC拠点としての機能も持たせる予定。店舗棟と倉庫棟をベルトコンベアで接続する構想もあるという。

目指すのは、店舗在庫とEC在庫を一元管理したいわばオムニチャンネルで、店舗と倉庫のシナジーを最大限引き出す運用といっていい。また味の素スタジアムから店舗までペデストリアンデッキでつなげる構想もあり、店舗併設型倉庫、あるいは倉庫併設型店舗としての機能拡充も継続して実施する。またゼビオでは、2019年ラグビーワールドカップと2020年東京オリンピックを見据えて今回の事例をベンチマークと位置づけ、倉庫空間への興味を高めつつあるという。同様の形態をもつ大型スポーツショップが誕生する日も遠くないかもしれない。

長い歴史のなかで倉庫業が果たしてきた、社会インフラとしての貢献に異論はないだろう。一種の金融業である米蔵をルーツとし、収益性と社会性を両輪としながら空間活用を追求してきた倉庫業の歴史は「空間活用イノベーター」と呼ぶにふさわしく、今後もそうあり続けるに違いない。倉庫業における業態化の必要性がいわれ続けるなか、倉庫の機能と店舗の機能を融合・補完し双方の価値向上を実現した共進倉庫。倉庫からスポーツショップへの建て替えは、スポーツを通じた地域発展への大きな後押しでもある。倉庫業業態化への道筋にターニングポイントがあるとすれば、今回の事例はその大きなものとして記憶されるのではないだろうか。

久保純一

倉庫業業態化へのターニングポイント

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